えじの自由帳

今の自分を書きためるブログ

書籍

綿矢りさ『かわいそうだね?』

『蹴りたい背中』や『勝手にふるえてろ』など、いくつか書名は聞いたことがありましたが、実際に手にとって読むまでは至っていませんでした。初綿矢りさは『かわいそうだね?』になりました。大江健三郎賞受賞作です。

『かわいそうだね?』

表題作。主人公、樹理恵には隆大という彼氏がいますが、その隆大の家に隆大の元カノであるアキヨが居候を始めます。

就活が成功するまでの間だから、見捨てられないから、という理由で隆大はアキヨをずっと家に置きます。

樹理恵は内心もやもやしながらも理解ある彼女を演じてしまい、葛藤することになります。

『亜美ちゃんは美人』

「さかきちゃん」は高校の入学式の時に「亜美ちゃん」と友人になります。

亜美ちゃんは圧倒的に可愛く、そこそこ可愛いさかきちゃんは隣に居ると霞んでしまいます。それ故にさかきちゃんは亜美ちゃんのことをうっとおしく思ってしまうことも。

亜美ちゃんは容姿も、人気も、年上の彼氏も、すべてのものを持っていました。

大学を卒業して、久しぶりに亜美ちゃんから連絡を受け、喫茶店に行ったさかきちゃん。そこにいたのはおよそ亜美ちゃんとは釣り合わなさそうな男でした。

さかきちゃんはどうすべきか悩み抜くことになります。

「亜美さんはさかきさんのことを世界で一番信用しています。彼女にとって影響力の強いあなたがこの付き合いに賛同するなら、彼女はますますこの恋愛に乗り気になります。そしてもし結婚したら、破滅が待っています。ずっと亜美さんの隣で耐えてきた苦労が、やっと報われる瞬間ですね」(p.230)

感想

アンビバレンスで、あらゆるものをぶちこわして台無しにしてしまいたいけれど、時には自分の心に嘘をついてまで取り繕うしかない、そんな誰にでもある歪みをこれでもかとばかりにぶつけてきます。

日常のまんなかで、たとえば真昼に自宅でパジャマでうどんを食べているときにいきなり、本気で自分が狂っているのを認めることが出来ればなにかから解き放たれるのに、日常を守り続けるために自分の命で遊ぶことをあきらめている臆病な存在たち、言うまでもなく哀れ。(p.132『かわいそうだね?』)

自分の命で遊ぶ、かぁ……

一つ一つの言葉選びが繊細で中毒性がありますね。

歪んで屈折しているけれど、でも自分の中にもある。だからこそ読んでいて心地よい。

そんな文章を書く作家だと思いました。

次は宮部みゆきの『名もなき毒』を読む予定です。

宮部 みゆき
文藝春秋 2011-12-06
¥ 890

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